絵具について
私たちが普段使用している絵具のほとんどは、顔料と展色剤とで構成されています。顔料とは、絵具の色の元になる粉末状の物質のことで、色土や鉱物、植物、動物(骨を焼く)などさまざまな物から作られます。
粉末であるこの顔料を画面にこすり付ければ色がつくわけですが、それでは何かの衝撃で落ちてしまい、安定して画面に定着させることはできません。そのため、顔料を画面に定着させるための糊の役割を果たす展色剤が必要になるのです。展色剤のことを専門用語で「ビヒクル」といいます。
絵具には、水彩絵具、油絵具、アクリル絵具などさまざまな性質のものがありますが、どれも顔料と展色剤とで構成されています。(ただ、市販されている絵具には、この顔料と展色剤のほかに、乾燥を助けるための乾燥剤やカビを防ぐための防腐剤、長期保存を助けるための保湿剤などの補助材料が添加されている場合がほとんどです。)この展色剤に何を使うかで、絵具の性質は決まります。
アクリル絵具について
アクリル絵具は、工業用ペイントから発達した絵具で、20世紀の半ばアメリカで開発されました。20世紀という時代は、それまでとは違った表現を求めて多くの画家達が試行錯誤を繰り返していた時代であり、油絵具に代わる、新しい表現にふさわしい理想的な絵具が求められていた時代であるともいえます。
そんな時代に誕生したアクリル絵具は、さまざまな素材に定着し、優れた耐久性によって活動の場を選ばず、スピーディーな制作に対応する速乾性を兼ねそろえた、時代のニーズに応えるまさに理想的な絵具でした。
ポップアートに代表されるアメリカ独自の美術の誕生と時を同じくして誕生したアクリル絵具は、若いアーティストたちに支持されると共に、アメリカの美術が世界的に認められるのに付随して世界中に浸透していくことになります。
- 【一言コメント】
私も4年ほど前から、画材を油絵具からアクリル絵具に切り替えて制作を行っていますが、絵を描く人達にとってはもはやアクリル絵具は認知された存在であっても、一般的にはまだ浸透していないというのが私の印象です。というのも、私が絵を描くというのを初めて知った方は、大抵「絵と言ってもいろいろ種類がありますよね。水彩とか油絵具とか」というように何の画材を使っているのかはたずねてくるのですが、「アクリルで描いてます」と答えるとほとんどの方が「アクリル?」という感じで首を傾げられるからです。
しかし、それも無理ないかもしれません。水彩絵具は、学校の美術の授業で誰もが使った事がある画材です。色鉛筆だってクレヨンだって使った事があります。油絵具は、使った事がなくても教科書などで印刷物を見たり美術館などで作品を見る機会もあるので、多少なりとも美術に関心を持っている人ならどういう画材であるか想像できるのです。しかし、アクリルとなると出会う機会が少ないのです。それに、描きようによっては油絵具を使って描いたようにも見えるので、アクリル絵具を使って描かれた絵を油絵具を使って描いたと思っている人も多いかもしれません。
アクリル絵具の特徴
アクリル絵具は、水で溶いて水彩絵具のように扱え、ポスターカラーのように発色のよい平塗りが可能でありながら、油絵具のように厚く盛り上げた表現もできるという、まさにあらゆる表現が可能な絵具です。(ギャラリー参照:作品はすべてアクリル絵具を使用しています)
アクリル絵具の特徴は、主に4つあげられます。
1 水溶性と耐水性
まずひとつめの大きな特徴として、アクリル絵具は水溶性であるということです。つまり、水で溶いて描くことができるということです。これだけなら水彩絵具と同じなのですが、水彩絵具と違う所は、乾くとアクリル樹脂がしっかりと結合し耐水性になるということなのです。この特徴のため、下の絵具と混ざることなく重ねて描いていくことができます。
- 【一言コメント】
アクリル絵具は、油絵具のように溶剤を必要としないので誰でも手軽に扱う事ができます。中高生などで絵を描き始めた人の中には油絵具崇拝というか油絵具で描くことに憧れている人を多々見かけるのですが、何の勉強もせずに油絵具を使う人も多く、溶剤も何も使わずに描いたり、セットに入っている筆洗い液で絵具を溶いたりとすごい使い方をしている人もいます。
何の画材を使うにせよ、その画材の特徴と基本的な扱い方は勉強して使わなければいけないと思うのですが、アクリル絵具だと基本的に水彩絵具と同じように扱う事ができる上に表現の幅も広く、何より絵具と筆さえあれば描ける手軽さが一番の特徴でしょう。
2 乾きが早い
アクリル絵具は、水分の蒸発と共に乾きます。特に油絵具を使って描くときに感じる製作途中で乾燥を待つイライラ感がなく、描き進めたいのにストップをかけられることがありません。
- 【一言コメント】
使い慣れていないと逆に余りの乾燥の速さに使い辛さを感じてしまうかもしれませんが、乾燥を遅くしたければ、画面に霧吹きで水を吹きかけるといいです。(その他に乾燥を遅くするメディウムもあります)それと同時にパレットに出した絵具もどんどん乾燥していくので、パレットに出した絵具の乾燥が気になる人は、ラップをかけておくことをお勧めします。
プラスチック製のパレットだと乾いてしまった後の処理が大変なので、出した絵具を取っておかない人は、使い捨ての紙パレットなど使うといいでしょう。私は、陶器の皿を使っています。これを使うと万が一乾燥してしまっても、しばらく水につけておくと綺麗にはがれるので(アクリル絵具は、乾燥すると樹脂の膜になります)後の処理が楽です。
3 強い定着性
アクリル絵具は、表面が多少ざらざらしたものなら何にでも描くことができます。紙だけではなく、木や布、プラスチックなどにも描くことができ、暑さや寒さ、太陽光線にも強く、ひび割れの心配もないので野外での制作にも威力を発揮します。ただ、ガラスのようなつるつるしたものは一見定着したように見えても、あとではがれる事があります。
- 【一言コメント】
大抵のものに定着するのがアクリルの特徴ですが、アクリル画を描く場合は、やはり地塗りをきちんとする必要があります。それは、絵具の発色をよくしたり画面への定着をより安定したものにしたりすると共に、筆のすべりをよくしたりするためです。地塗りは、よい作品を作るための大切な土台作り。最後まで作品に影響するものですから丁寧にしましょう。
4 幅広い表現
アクリル絵具は、油絵具のように厚く盛り上げた表現、水彩絵具のような透明感のある表現、ポスターカラーのような均一な平面表現など様々な表現が可能です。同じ画材で様々な表現ができるということは、同一画面の中でその操作が可能だという事であり、同じ素材ゆえ、画材の定着が安定するのです。
- 【一言コメント】
アクリル絵具は、日本では使われ始めた頃は、それこそ油絵具の代替品のような存在で、油絵具のようにかけるが扱いが手軽という認識だったような気がします。私が最初にアクリル絵具に触れたのは、ポスターカラーの替わりという扱いの中ででした。ポスターカラーだと平塗りにむらが出てしまった時のやり直しがなかなか難しいのに対して、アクリルだと簡単にそのやり直しができるというので使ったのです。
しかし、アクリル絵具を何かの代替品として考えて使っているうちは、アクリル絵具そのもののよさや、アクリル絵具だからこそ生まれる表現を見落としていくと思います。
アクリル絵具のメディウム(補助絵具)
- ジェッソ(Gesso)
白色の地塗り剤で、絵具の定着と発色を助け作品の仕上がりを引き立てます。 白は、チタニウムホワイト。
- カラージェッソ( Color Gesso
)
地塗り用の色付のジェッソです。ブラックジェッソを加えた7色があります。 白色のジェッソも含め、すべて混色が可能です。
- グロスポリマーメディウム( Gloss Polymer
Medium)
つや出し効果用のメディウムで絵具に混ぜると透明感が増します。薄い物のコラージュも可能で、光沢仕上げ用ニスとしても使えます。アクリルポリマーエマルジョンそのもの。
- マットメディウム(Matte Medium)
艶消し用のメディウムで、光沢を抑える働きをします。グロスポリマーメディウム同様、コラージュの接着剤としても使用できます。 シリカ(珪石:ガラスの素)が原料。
- パールメディウム( Pearl Medium)
絵具に混ぜるだけで簡単にパールカラーを作ることができます。メディウムを塗った上に絵具を重ねることもできます。アクリルポリマーエマルジョン+雲母が原料。
- モデリングペースト ( Modeling
Paste)
粘りの強いパテ状の白色地塗り剤で、地塗り・盛り上げ用として使います。乾燥が速いので、一度に厚くしない(3mmをこえない)方がいいです。
大理石が原料。
→写真は、左がメディウムの上に絵具を塗ったもの。右が、メディウムに絵具を混ぜたもの。
- ジェルメディウム(Gel Medium)
グロスポリマーメディウムよりさらに強い光沢、接着力を持ったクリーム状の盛り上げ用メディウムです。 タッチを出すのに使用できます。乾燥が遅いのが特徴です。
- マットジェルメディウム( Matte Gel
Medium )
艶消し効果を持ったジェルメディウムです。 使用方法は、ジェルメディウムと同じです。
- ヘビージェルメディウム( Heavy Gel
Medium)
ジェルメディウムよりさらに高粘度で強い光沢を持ったメディウムで、強いタッチの表現に使用します。 ナットや木などのコラージュにも使用できます。
- グラデーションメディウム( Gradation
Medium)
絵具を薄めてのばしたり、きれいにぼかすために絵具の乾燥を遅くするメディウムです。使いすぎないのがポイントで、塗ってかすれるようだとメディウムを少し混ぜるようにして使用します。
- リターディングメディウム( Retarding
Medium )
リキテックス絵具と混ぜて、絵具の固さを変えずに乾きを遅らせる働きをします。 大きな画面で統一の乾燥速度が欲しいときに使用します。乾燥時間の目安は2時間です。
- マットバーニッシュ( Matte Varnish)
水性艶消しニスです。作品が完全に乾燥後使用して下さい。
- ソリューバーグロスバーニッシュ( Soluvar
Gloss Varnish)
再溶性のつや出し効果を持った保護用ニスです。
- ソリューバーマットバーニッシュ(Soluvar
Matte Varnish)
再溶性のつや消し効果を持った保護用ニスです。
- ブレンディング&ペインティングメディウム(Painting
Medium )
絵具を薄める時、水の代わりに使用するメディウムで、絵具に混ぜて使用すると固着力を弱めずにすべりが滑らかになり絵具の伸びを良くします。細い線を引くときに一筆でよく伸びます。
- リキシック(Liquithick)
絵具を硬くするメディウムで、少量混ぜるだけで油絵具のような固さが得られます。
絵具に対して1〜2割が適量です。
- テクスチュアジェル(Texture Gel)
*@〜Fは混ぜられます。
アクリル絵具の使用上の注意と用具の選び方
- 筆について
筆はどのような毛のものでも使えますが、動物毛よりもナイロンなどの合成繊維のほうが手入れが楽です。アクリル絵具は、とにかく乾燥が速いので、制作途中でも絵具をつけたまま筆を放置してはいけません。
- パレットについて
乾燥したら固まって取れなくなってしまうので、木のパレットはお勧めできません。表面が平滑なプラスチックパレットも最初は落ちますが、次第に色素が沈着していって取れなくなっていくので余りお勧めできません。
絵具を硬めに使うなら使い捨ての紙パレットがいいでしょう。一番使い勝手がいいのは、日本画やデザインなどでよく使われる陶器の皿です。これだと固まってしまっても、しばらく水につけておけば樹脂の膜となった絵具が綺麗に剥離します。
- 紙類
すべての紙に描くことができます。しかし、発色のよさを求めるなら下地にジェッソを塗ることをお勧めします。
- キャンパス
水性の加工が施してあるキャンバスが使用できます。油絵用の加工が施してある表面が油性のキャンバスは剥離の原因になるので使用できません。
- 板
アクリル絵具はよく乗ります。しかし、そのまま使うと板の表面に付着したヤニや接着剤が絵具に影響を及ぼす可能性があるので、ジェルメディウム塗ると安全です。絵具の発色をよくするためには、下地にジェッソを塗ることをお勧めします。
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